海外留学制度を利用した

米国臨床研究留学記

この度、平成28年度の長期留学に選出して頂き、2016年4月から約1年間、米国へ海外留学をさせて頂きましたので報告させてもらいます。私は、前職までは病院で勤務する臨床医、いわゆる“お医者さん”として勤務しておりました。平行して研究活動を行っていたことが幸いして、2013年度から本学工学部機械工学科にご縁があり、着任いたしまして、医学と工学の接点となるような研究を学生に教育できるよう、医工学研究室を担当しております。そんな経緯のため、タイトルに“臨床”というキーワードが入っております。

 

長期、短期留学制度というものが、本学にあることは、私が本学に着任しました2013年の時点では知りませんでした。およそ10年前の2008年10月から1年ドイツ、アーヘンに留学(アーヘン工科大学の医工学研究関連の施設)したことのある自分としては、もうそんな機会はないだろうと思っていました。たまたま着任した年の秋に行われました、韓国での本学の現地入試に試験監督をしに行った際に、そういった制度あることを知ったのでした。たまたまご一緒させてもらいました、本学経済学部経済学科の韓福相教授からそのお話を聞き(韓先生は2回行ったことがある、とおっしゃっていました)、興味をもったのがきっかけでした。着任当初で大学の制度等ほとんどわかっていなかった時でしたので、この出会いにはとても感謝しております(選出後に韓先生にお伝えしたほどです)。

もう一つ運がよかったのは、留学先選定のためのつながりを既に外にもっていたということだと思います。前職の際に、日本整形外科学会・米国整形外科学会共同主催のトラベルフェローの2013年度の選考に最小学年で選出され、1ヶ月の内にアメリカの西海岸を中心とした臨床・研究施設11施設を訪問するという機会を頂いておりました。著名な大学の医師および研究者とつながりを持てていたことがあって、申請時点の段階で、“どこの何の先生のところへ行き留学活動をするのか“という計画書を提出しないといけなかったのですが、なんとかなりました。こうして、2016年4月から12月の9ヶ月を、ユタ州ソルトレイクシティにありますユタ大学の整形外科センターで、2017年1月から3月の3ヶ月をカリフォルニア州のサンディエゴにある、スクリプス研究所にいくことができたのでした。続いてこれら2つを分けて紹介していきたいと思います。

 

ユタ大学整形外科センターでは、主に2人の先生に師事しました。一人はAoki Kenji Stephen先生で、スポーツ外科がご専門で、股関節鏡手術の第一人者の一人です。

(下図Aoki先生(右)と著者(左))

すすんでいる欧米であっても、股関節疾患に“FemoroAcetabular Impingement”という疾患概念が2003年にうまれ、そのための診断・治療をこれからやっていくという状況でした。少し遅れた日本でも、そういった治療が行われていることが認識され、少しずつは行われている状況になってきましたが、まだまだ明らかにしないといけないことがたくさんある状況でした。同じ疾患概念であっても、欧米と日本では治療方針が同じにならないという意見もあり、混沌としてしまう状況をなんとか払拭したいという気持ちが自分の中に芽生えておりました。なので、手術・外来を見学するという“見習い(笑)”的立場で、きちんとAoki先生の股関節患者の診断方法、治療方法、手術手技などをマスターすることにしようと考えました。ここで得られた知見を、必ずや帰国後の日本で役に立たせようと思い、自分の研究分野の一つである、画像解析の研究を行うことにしました。欧米の股関節疾患のほとんどは、若年期の運動負荷によって生じた骨頭変形が原因で、運動時、大腿骨頭の受け皿(おわんのような形)となる骨盤側の寛骨臼という部分と衝突することが言われていました。一方、日本ではもともと寛骨臼の形成不全で、骨頭を覆えていない部分の荷重負荷が問題とされていました。しかし、上記の画像解析によって、寛骨臼が形成不全の患者でも、骨頭が寛骨臼に衝突していることを明らかにしました。つまり、現在欧米で行われている診断・治療体系は、日本においても参考にできることが明らかになったのです。 この研究は、2017年度9月2日に開催された第13回日本股関節鏡研究会で優秀ポスター賞に選ばれました。

(下図は第13回日本股関節研究会での優秀ポスター賞受賞のときのもの、学会長の大原先生と一緒にポスターの前で)

Aoki先生とは、他にも日本では行えない研究をすることができました。それは、新鮮屍体組織を用いた実験研究です。日本では屍体組織を用いた実験を行う際に、ホルマリンによって固定されたものしか使用できません。しかし、欧米では死亡後凍結させて実験の際に解凍して実験を行うことが可能です。股関節鏡手術において、手術処置を行う関節唇、軟骨といった軟部組織における力学評価を行う目的で、計測機器を開発したのですが、それを実際の患者に使用する場合に、評価に値するかどうか、上記のような新鮮凍結させた屍体組織で実験を行う事が一般的なのですが、それをユタ大学でやってもらえないか依頼しました。一般的に留学での研究というのは師事した先生のアイディアで行われることが多いのですが、

自分で企画した研究を留学先で実行に移せたのは非常に貴重な機会でした。この結果は、10月に行われる、国際股関節鏡学会や日本股関節学会で発表を行うことにしています。もう一つあります。手術見学にて手術手技を見ていた際に思いついたアイディアで、特許の出願を行う事ができました。股関節鏡手術において、上述の変形した骨頭というのは、もとの球形に近づけるよう、変形部分を、球形のドリルで掘削するのですが、技術的に難しいことから、トレーニングシステムがあればいいと思ったのですが、そういったものは存在していなかったので、作成する事にしたのでした。

 ユタ大学では、Aoki先生だけでなく、工学者であるAndrew Edward Anderson氏とも一緒に研究を行いました。ユタ大学整形外科センターでは、その施設内に工学研究者がラボを持ち、研究を行っており、いつも臨床医と活発な交流がなされています。Anderson氏もその一人で、医療画像から3次元モデルを作成すること、またそれをリアルタイムな透視画像で重ね合わせる手法で動作解析を得意としていました。ここで作成された3次元モデルを用いたシミュレーション研究を行いました。今までも各患者の足がどれだけ曲がるかというシミュレーション研究はいろんな施設でされているのですが、骨同士の衝突のみしか評価しておらず、関節唇のような軟部組織が含まれた3次元モデルのシミュレーションはされていなかったので、それを行い、新知見を得ることができました。今までのシミュレーションで得られた値とは20度違うことが明らかとなったのです。この研究は既に今年開催された米国整形外科基礎研究学術集会や国際コンピュータ支援整形外科学会などで発表を行っています。

 このようにユタ大学では臨床ないしそれに近い分野での研究活動を行いましたが、サンディエゴのスクリプス研究所では、もっと基礎的な研究について学びました。組織工学とか再生医工学とか言われている領域で、新しく臓器を作り出せるかという“再生医療”に関わる研究を行っているDarryl D’Lima氏に師事しました。丁度3Dプリンタの技術で、手術ガイドを作成した経験もあって、次なるトピックは3Dバイオプリンタであると思い、その勉強をしたいとコンタクトをとっておりました。いろんなタイプのバイオプリンタの研究をしており、その1つがたまたま自分で購入しようと検討していたものであったので、その可能性を確認するといったことができました。現在、自分の研究室にも1つバイオプリンタを用意し、再生医工学の研究をまさに始めるといった状態にあります。

また先端技術の研究や、先端技術を用いた臨床における疑問点を解決する研究を行うことができた一方で、家内、6歳の娘、4歳の息子も帯同してもらっての留学でしたので、週末は家族で国立公園に行くなど、満喫しました。また、本来ならば外国に溶け込むといったことが大事ではある一方で、母国語でコミュニケーションがとれるふれあいも大事であると思うのですが、行く先々で日本人のコミュニティにも助けられました。子供たちのつながりによって開催されたハロウィンやクリスマスの催しも大変有難いものでした。

 

 駆け足にはなりましたが、不在にした1年間で多くの事を吸収できたことをお伝えさせていただきました。これを糧に今後も一層大学に貢献できたらと考えております。